時に台風の荒れ狂う夜である。
深緑色の扉をやっと開け舩坂書店の外へ出ると、目の前の道路標識が強風でたわみ、耳をつんざく轟音に連動して奇妙なリズムを刻んでいた。
それはいつの時代だったろう?
「……オレンジ色の光の風に乗って揺れる緑の木漏れ日が、庭に置かれた白いテーブルに形容し難い色彩をつくっていた。カラフェに注ぎ足してきた白ワインを抱え、〈しるびあ〉が現れる。私は椅子に戻って腰掛ける。そして私たちは、話の続きを始めるのだった。時間を忘れた私たちは、蝋燭に火を灯し続けては、やがて星屑が囁くのを止めても尚それを続けた。」
……頭は幻想に引きずられたまま、体は死をももたらしかねない大地の脅威にさらされて、心が錯乱をきたし果てには価値を転倒させてしまった。つまり、私は荒々しい混沌に何かを夢見、むせぶような終わらない夢の中に死を――魂の死を見たのである。思えばそれは眠りに似ていた。私は考えた。たとえば海の潮風は、そのどちらをもたらすのだろうかと。
君が言った言葉を思い出す。
“魂が死ぬのは悪いことではないよ。それが生きるということであるのだから。死の中に生きるのか、生の内に死ぬのか、答えは二つに一つとは限らない。”
君は続ける。“あなたは何か、とてつもなく長い小説でも読んだのね”
「それでは救いはどうなるのか?」
「救いなどないよ、」「うん、救いなど存在しないね。」
“だけどやっぱり、人生は幸せでないとね”
――あそこにあったのは、光でもなく影でもなく、またテーブルの白色でもなかったろう。
私はしるびあの瞳に時折兆す、隠しきれずして波立つ漣を認めていた。その瞳を想像し、その奥にゆらめく火影を探しては眠れぬ夜を明かすのだった。